発行日：2025年9月12日

韓国政府と米国政府は、両国間の経済協力深化に伴い顕在化しているビザ問題を解決するため、専門的なワーキンググループを設置し、実務協議に着手することで合意しました。この画期的な合意は、特に大規模な対米投資を進める韓国企業や、米国の先進技術分野で活躍する韓国人専門人材にとって、長年の課題であったビザ取得の障壁を緩和し、より円滑な国際交流と経済活動を促進する重要な一歩として注目されています。韓国外交部の発表によると、米国側もこの提案に原則的に同意しており、早急な実務協議の開始が期待されています。

米韓経済協力の深化とビザ問題の背景

近年、韓国と米国は伝統的な安全保障同盟の枠を超え、経済、技術、文化といった多岐にわたる分野で包括的なパートナーシップを強化しています。特に、半導体、バッテリー、電気自動車などの先端産業分野における韓国企業から米国への大規模投資が急速に増加しており、これに伴い、プロジェクト遂行に不可欠な専門技術者や経営陣の米国派遣が急務となっています。しかし、既存のビザ制度がこれらの急激な変化や新たな産業構造、働き方に十分に対応しきれていない現状があり、結果として企業活動の停滞や優秀な人材確保の遅れに繋がるケースが散見されていました。例えば、特定の工場建設プロジェクトにおいては、必要な技術者が適切なビザを取得できず、工事が予定通り進まないといった具体的な課題が報告されています。このような状況は、両国間の経済的結びつきが深化する中で、新たな摩擦要因となり得る懸念を生じさせていました。

ワーキンググループ設置合意に至る経緯と目的

今回の合意は、韓国の外交部長官が米国を訪問し、国務長官やホワイトハウス国家安全保障副補佐官と相次いで会談した際に提案されたものです。韓国側は、急速に拡大する対米投資の裏側で、ビザ制度の不備が企業活動に深刻な影響を与えかねないという強い懸念を表明し、米国務省と韓国外交部の間で専門の「ビザワーキンググループ」を立ち上げ、新たなビザ形態の創設を含めた具体的な解決策を迅速に協議していくことを提案しました。これに対し、米国政府も原則的に同意する姿勢を示し、特に大規模投資が現実のものとなっている現状において、ビザ制度がその進展を適切に支援できていないことを認識し、後続措置を積極的に推進すべきとの立場を表明したと伝えられています。この合意は、単なる事務レベルの会談を超え、両国が経済的パートナーシップを重視し、具体的な課題解決に向けて協力する意思の明確な表れと言えるでしょう。

主要なビザ問題と提案された具体的な解決策

ワーキンググループで議論される主要なビザ問題とその解決策は、以下の三つの柱を中心に構成される見込みです。これらの提案は、現在のビザ制度の限界を補完し、両国間の経済活動をより円滑に進めることを目指しています。

1. B-1ビザ（短期商用ビザ）の弾力的運用とガイドラインの明確化

B-1ビザは通常、短期的な商用目的で米国を訪問する際に利用されるビザです。しかし、工場建設のような大規模なプロジェクトにおいて、その定義する「商用」の範囲が曖昧であるという問題が指摘されてきました。米国国務省の運用マニュアルによれば、B-1ビザの保有者は、米国外で製造された機器の設置や操作、現地スタッフへの教育活動が可能とされています。一方で、米国国土安全保障省など、ビザ発給後の取り締まりを担当する機関は、工場建設現場での実務作業を「就労」と解釈し、B-1ビザの範囲外とみなすケースがあるため、両機関間で解釈の不一致が生じていました。

この解釈の相違は、プロジェクトの遅延や、派遣された韓国人技術者が現地で予期せぬ法的問題に直面するリスクを高め、企業にとって大きな不確実性となっていました。韓国政府は、この問題に対し、B-1ビザのガイドラインに「工場建設」といった具体的な業務内容を明記するなど、より明確な基準を提示するよう米国側に提案する方針です。これにより、企業は安心して人材を派遣できるようになり、プロジェクトの円滑な進行が期待されます。専門家は、ガイドラインの明確化が、法的な安定性だけでなく、企業の計画策定にも大きく寄与すると指摘しています。

2. H-1Bビザ（専門職向け就労ビザ）の割当量確保

H-1Bビザは、特定の専門職に従事する外国人向けの就労ビザで、年間発給数に厳格な上限が設けられています。特に、情報技術（IT）、工学、科学、数学（STEM）分野の高度専門職に対する需要は世界的に高まっており、毎年、発給数をはるかに上回る申請が殺到するため、非常に競争率が高く、抽選による不確実性が企業の採用計画に大きな影を落としています。近年では、年間約85,000件（一般枠65,000件、修士号以上20,000件）の発給枠に対し、申請数が30万件から40万件に達することもあり、取得は「狭き門」となっています。

韓国政府は、このような状況を踏まえ、米国がカナダやオーストラリアといった特定の国に対して設けているようなH-1Bビザとは別の専用枠や優遇措置を参考に、韓国人専門職向けの割当枠の確保を米国側に交渉する意向です。これにより、韓国の優秀な人材が米国での就労機会をより確実に得られるようになり、米国経済の成長と技術革新にも貢献することが期待されます。この措置は、両国間の経済的パートナーシップの強化に不可欠な人材交流の基盤を安定させる上で極めて重要であると考えられています。

3. E-4ビザ（韓国人専門人材向けビザ）の新設提案

さらに韓国政府は、韓国の高度専門人材のみを対象とした新たなビザカテゴリー「E-4ビザ」の創設を提案しています。これは、投資家向けのE-1/E-2ビザのように、二国間条約に基づいて創設される可能性のあるビザであり、特に半導体、人工知能（AI）、バイオテクノロジー、クリーンエネルギーといった、両国が戦略的に協力関係を強化している分野に特化した高度専門人材の流動性を高めることを目的としています。

カナダやメキシコの専門職に特化したTNビザ（NAFTA/USMCA協定に基づく）のように、特定の国からの専門職を受け入れるための特別ビザは国際的にも前例があります。E-4ビザが新設されれば、韓国の最先端技術を持つ人材がより迅速かつ容易に米国へ渡航・就労できるようになり、米国の産業競争力強化とイノベーション促進に直接的に貢献することが期待されます。これは、単なるビザの種類を増やすだけでなく、両国間の技術協力と共同研究開発を加速させ、グローバルサプライチェーンのレジリエンスを強化するという、より広範な戦略的意義を持つ提案と言えるでしょう。

ビザ問題が経済に与える影響と展望

ビザ問題は、企業による投資決定に直結する重要な要素です。韓国の大統領は、「現在の状態では、米国現地への直接投資は、韓国企業にとって非常に躊躇せざるを得ないだろう」と述べ、ビザ制度の不備が企業の投資意欲を阻害している現状に強い懸念を示しました。実際に、ビザ取得の不確実性や困難さが、数百万ドルから数十億ドル規模のプロジェクトの計画遅延、追加コストの発生、さらには優秀な人材の獲得競争における不利な立場へと繋がり、企業の国際競争力に影響を及ぼしかねません。

今回のワーキンググループ設置合意と、それに続くビザ制度の改善が実現すれば、韓国企業による対米投資はさらに加速し、米国内での雇用創出や技術革新にも大きく貢献することが期待されます。例えば、すでに発表されている大手半導体メーカーの米国新工場建設プロジェクト（総投資額数十億ドル、数千人規模の雇用創出が見込まれる）なども、ビザ問題の解決が円滑な推進の鍵を握っています。経済界からは、「ビザ問題が解決すれば、企業はより長期的な視点で米国市場での事業展開を計画できるようになり、サプライチェーンの安定化にも繋がる」との期待の声が上がっています。

不法滞在問題への対応と人道的配慮

ビザ問題の協議の中では、過去に米国から強制送還された韓国人の再入国に関する不利益の解消も議題となりました。通常、米国から自発的な出国を希望する場合であっても、不法滞在の事実を認めるための承認手続きが必須とされ、これが将来的な米国への再入国に際して不利に働く可能性がありました。しかし、今回の協議では、過去に米国の拘禁施設から解放され、韓国に帰国した316名の韓国人については、例外的にこの「承認手続き」を省略することで合意されたと報じられています。

この特例措置は、人道的な配慮と同時に、将来的なビザ問題解決に向けた両国間の信頼構築の一環として重要な意味を持ちます。米国政府が特定のケースにおいて柔軟な姿勢を示すことは、今後のビザ制度改革に向けた対話の円滑化に貢献すると考えられます。不法滞在問題は各国にとってデリケートな課題ですが、個別の状況に応じた柔軟な対応は、より広範な外交関係や国民間の理解を深める上で有効な手段となり得ます。

今後の課題と見通し

ワーキンググループは今後、具体的なビザの種類、申請要件、手続き、および適用範囲について詳細な協議を進めることになります。ビザ制度は各国の主権に関わる法制度であり、移民政策の根幹をなすものであるため、その変更や新たな創設には慎重な検討と複雑な調整が必要です。両国政府の各省庁間での調整はもちろん、米国内の関連法規の改正が必要となる可能性もあり、協議は容易ではないと予想されます。特に、H-1Bビザの割当量確保やE-4ビザの新設は、米国の移民政策全体に影響を及ぼす可能性があり、議会の承認など、政治的なプロセスも伴うかもしれません。

しかし、両国政府が共有する経済的利益と戦略的パートナーシップという強固な基盤があることから、建設的な進展が期待されています。韓国政府は「可能なあらゆる方策を米国側に提案する」との姿勢を示しており、米国側も「積極的な後続措置」を約束していることから、具体的な成果へと繋がる可能性は高いと言えるでしょう。このワーキンググループの活動は、グローバル化が進む現代において、国家間の経済協力が直面する具体的な障壁を乗り越え、より開かれた国際社会を構築するための重要なモデルケースとなるかもしれません。

まとめ：より開かれた国際交流と経済発展への道

今回の韓国と米国によるビザワーキンググループ設置合意は、両国の経済的結びつきが新たな段階に入ったことを象徴する出来事です。半導体やバッテリーといった未来産業への大規模な投資、そしてそれに伴う高度専門人材の国際的な流動性の確保は、両国にとって共通の戦略的課題であり、経済的繁栄の鍵を握っています。B-1ビザのガイドライン明確化、H-1Bビザの割当量確保、そしてE-4ビザの新設といった具体的な提案は、これらの課題を克服し、よりスムーズなビジネス環境と人材交流を実現するための重要なステップとなるでしょう。

ワーキンググループでの実務協議は、様々な困難を伴うことが予想されますが、両国政府の強い意志と協力体制があれば、必ずや具体的な成果を生み出すことができるはずです。この取り組みが成功すれば、両国間の経済関係は一層強化され、国際社会における模範的な協力事例として、他国の追随を促す可能性も秘めています。最終的に、この合意が目指すのは、単なるビザ手続きの簡素化に留まらず、韓国と米国の企業がより自由に、そして安心してビジネスを展開し、優秀な人材が国境を越えて活躍できる、より開かれた国際交流の実現です。今後のワーキンググループの進捗に、世界中から大きな注目が集まることでしょう。

用語解説

• ワーキンググループ: 特定の課題や目標のために組織される専門家や関係者からなる小規模な作業チーム。具体的な調査、分析、解決策の検討などを行う。
• B-1ビザ: 米国への短期商用訪問を目的とした非移民ビザ。会議出席、契約交渉、ビジネス調査などが主な目的とされ、就労活動は原則として認められない。
• H-1Bビザ: 米国で特定の専門職に従事する外国人向けの非移民就労ビザ。学士号以上の専門知識を要する職種が対象で、年間発給数に上限がある。
• E-4ビザ: （提案されている）韓国の高度専門人材を対象とした新たなビザカテゴリー。特定の産業分野における人材流動性を高めることを目的としている。
• 不法滞在: 許可された滞在期間を超えて外国に滞在すること、または入国許可を得ずに滞在すること。

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